2019.04.02

―金なし、コネなし。はじまりは1冊の会社四季報から―

元銀座No.1ホステスの飛び込み営業記録

 

鈴木セリーナ、大分県大分市出身。
10代で地元・大分のホステスとなり、20歳で上京。銀座のホステスとして働きはじめ、瞬くうちに売り上げNo.1の座を勝ち取った。
若い頃から働いていたため、学歴は当時、中卒だった。
そんな彼女は現在、キャスティング会社と文房具会社を営む経営者だ――。
ホステスからビジネスウーマンへ。
学歴もコネもなかった彼女がどうやって一流企業と仕事を共にするに至ったのか。その秘密に迫る。

 

Scene2

コンドームメーカーと育児漫画雑誌『すくパラ』が“妊娠検査薬”でコラボ

 

鈴木さんと継続的に仕事がしたい――。

 

そう言われて次の相談が来たのは、“土下座コンドーム”発売の直前だった。まだ最初の商品の売り上げがどうか分からないにもかかわらず入ってきた次の依頼は、「新商品の妊娠検査薬のプロモーションを考えてほしい」ということ。すでに競合他社がたくさんいて確立された市場があるこの商品を、どういうパッケージで、どのように販売していくのがいいのか……アプローチの仕方を彼女に相談したいというのだった。

 

前回“土下座コンドーム”で彼女はコンドームの大手メーカー・不二ラテックスと、キャラクタービジネスを営むザリガニワークスの2社を結び付けたが、今回の依頼は「妊娠検査薬」。前回よりも少しカタめな切り口でいった方がいいのでは、と彼女は考えた。そこで思いついたのが、竹書房が刊行していた育児漫画雑誌『すくすくパラダイス』、通称『すくパラ』と組むことだった。というのも、当時この雑誌にはテレビアニメにもなった『うちの3姉妹』という育児漫画が連載されており、育児をする母親を中心に人気を集めていた。そこで、この人気漫画と組み合わせて何かをすれば、妊娠検査薬としては後発の不二ラテックスでもチャンスがあるのではないか、と考えたのだった。

 

もちろん彼女に、『すくパラ』との伝手(つて)はない。またいつもの通り電話をかけ、こう切り出した。
「私、コンドームメーカーの不二ラテックスと商品開発をしている『apple ribbon』の鈴木セリーナと申します。今回不二ラテックスから新商品として妊娠検査薬を発売することになりました。つきましては、御社の『すくすくパラダイス』さんとご一緒できないかなという話が出ておりまして、ご連絡した次第です。担当者様にお繋ぎいただけないでしょうか」

 

電話でのアポイントは成功。早速『すくパラ』に提案に行った彼女は、今回もまた提案を採用してもらうこととなる。当時不二ラテックスはECサイトを強化しようという流れもあったため、新商品の妊娠検査薬はオンラインでの販売をメインとし、双方の公式サイトでリンクを貼ることとなった。そしてこの商品も“土下座コンドーム”と同様、人気商品となったのだ。

 

ではなぜ、後発の不二ラテックスが妊娠検査薬で成功することができたのか――。
それは彼女が今回、「妊娠検査薬=第二子妊娠を望む人のために」とターゲットを絞ったからだろう。
今回コラボレーションが実現した『うちの3姉妹』は、実話をもとにした作者の3姉妹の子育ての話だ。読み進めていくと「大変な日常がありながらも家族はいいものだ」という気持ちを呼び起こさせてくれる。
そして提案に行った『すくパラ』という育児漫画雑誌。こちらは第一子がいる家庭を前提とした媒体であった。電話でアポイントをとった彼女はその席で色々な話をするうちに、“『すくパラ』はユーザー参加型コンテンツが強い”ということを知る。それならば、読者を巻き込むプロモーションが面白いのではないか、という方向性を見つけたのだった。“妊娠検査薬で幸せチェック”。こうして今回決まったコラボレーションは、読者に不二ラテックスの新商品を使ってもらい、第二子妊娠へのエピソードを投稿してもらう、という取り組みに決定した。

 

コンドームメーカーが妊娠検査薬を作る。普通は固定概念で“望まない妊娠の確認のための商品”と思い込んでしまいそうなところだ。しかし、彼女は先入観にとらわれない。まずアポイントをとり、相手の求めていることと、こちらのやりたいことをすり合わせ、今回の方向性を導き出した。そう、“いつも通り”に――。

 

対話によって相手が求めていることを聞き出し、こちらのやりたいこととすり合わせていく。売り込むのではなく、“世の中に面白いことを生み出したい”という気持ちを共有する。これが鈴木セリーナの営業の基本だ。この当時まだ浸透していなかった“妊活”というマーケットを見つけ、後発の妊娠検査薬のプロモーションに成功したのも、この丁寧なプロセスの結果だったのかもしれない。

 

(続)

 

 

 

取材・文/まちおこし
撮影/八坂悠司