2019.03.19

―金なし、コネなし。はじまりは1冊の会社四季報から―

元銀座No.1ホステスの飛び込み営業記録

 

鈴木セリーナ、大分県大分市出身。
10代で地元・大分のホステスとなり、20歳で上京。銀座のホステスとして働きはじめ、瞬くうちに売り上げNo.1の座を勝ち取った。
若い頃から働いていたため、学歴は当時、中卒だった。
そんな彼女は現在、キャスティング会社と文房具会社を営む経営者だ――。
ホステスからビジネスウーマンへ。
学歴もコネもなかった彼女がどうやって一流企業と仕事を共にするに至ったのか。その秘密に迫る。

 

Scene1

不二ラテックス×ザリガニワークスを結び付けた“土下座コンドーム”

その日も、鈴木セリーナは会社四季報を片手にひたすら電話をかけていた。彼女が銀座のホステスを辞めてから 1年。銀座時代に稼いだ資金もとうに底をつき、「仕事はないが、時間はある」という状況の中、何かをしなければ、という思いで1社1社電話をかけてはアポイントをとっていた。当時、ウィルコム(現ワイモバイル)が「月額500円で1回10分間通話無料」というキャンペーンを行っており、持ち時間10分で電話口の相手にこう伝えた。

 

「私は銀座の元ホステスです。企画会社を立ち上げて、色々なところにお電話をしています。お友達企業が多いので、何か一緒に企画の仕事をさせてもらえませんか。御社に一度お伺いして商品のことをもっと深く知りたいのですが…」

 

銀座ホステス時代の話術に加え、電話口で伝えた内容もよかったのか、アポイントの成功率は悪くなかった。この当時、必ず伝えていたのは「お友達企業が多いので」という一言。けれど、“お友達企業”といってもこの時の持ち駒は実は数えるほど。かつ、銀座ホステス時代のお客様ではなく、たまたま入った飲食店で知り合った芸能事務所のマネージャーや、同じようにして電話でアポイントのとれた企業のことを指していた。実際に仕事に繋がる確証は、その時はなかった。でも、「とにかく会えば、何かできるはず」。そんな強い思いが彼女を衝き動かした。そして電話をかけ続けて20社目。その後、長くお付き合いをすることになる不二ラテックスというコンドームの会社にアポイントをとることに成功する。

 

彼女の仕事のやり方は、いつも相手への興味から始まる。不二ラテックスも例外ではなく、実際に行ってみると、序盤は企画の話より、コンドームの市場の話で盛り上がった。そこで議題に上がったのが「今コンドームは空港で売れているのだが、なかなか若い人には手に取ってもらえていない」という現状。そんな話の流れで、彼女は閃き、こう提案した。「若い肉食系男性が合コンで女性にお願いをし倒してそういう関係に至るように、“土下座コンドーム”というのはいかがでしょうか? 土下座のキャラクターの著作権を持っている会社を知っているので、そこと組めるように話をします」と。

 

この会社というのはザリガニワークスといって、彼女が昔から好きなキャラクター“土下座シリーズ”や、“コレジャナイロボ”を描いたクリエイターが営む企業だった。この会社にも以前同様に電話をしたことで面識があったのだ。「魅力的なキャラクターを創っている会社と、面白そうなコンドームの会社を結び付けたい」。その熱意が伝わったのか、企画は双方の社内で無事通過して、商品化の運びとなった。

 

「キャスティングの仕事」というと、タレントを売り込み、PRし、まず“自分の手持ちのアイテムをいかに相手に売り込むかが勝負”とイメージされることも多いだろう。けれど、彼女の仕事のやり方はまるで違う。まず相手の商品やサービスについて聞き、理解し、惚れ込む。そこから、相手が「何を」求めているのかを見出して、マッチングさせていくのである。自分が売りたいものを押し売りしたり、市場を先に調べたりはあえてせず、まず相手を理解する。この作業を積み重ねたからこそ、相手が求めている「何か」をきちんとヒアリングすることができたのだ。こうして誕生したのが“土下座コンドーム”である。

 

こうして商品化が決まった“土下座コンドーム”は、持ち歩きしやすい缶のケースにしよう、デニムのベルトループに通せるようにチェーンをつけよう、など装丁へのアイデアも出され、発売後、すぐに人気に火がついた。そして鈴木セリーナと不二ラテックスとの付き合いは、この後も継続していくこととなった。

 

(続)

 

 

 

取材・文/まちおこし
撮影/八坂悠司