お笑いとビジネスの根底にあるもの

2019.04.02

元銀座No.1ホステスで、現在は実業家として様々な事業を展開している鈴木セリーナと、2010年のR-1ぐらんぷり王者に輝いた、お笑い芸人のあべこうじ。前回は、大分トリニータの楽曲制作プロジェクトについて語ってもらいました。続く第三回目は、プロジェクトを通じて見えてきた、お互いの仕事のスタンスについて。会社経営者と、お笑い芸人という異なる世界に生きる二人の、興味深い話を聞くことができました。 文=島野美穂(清談社) 写真=関大介(世紀工房)

プロフィール

鈴木セリーナ大分県出身。幼少期から英才教育を受けお嬢様として育つ。16歳の頃、親への反発心からドロップアウト。年齢を隠して、地元クラブのホステスとなる。20歳の頃、「銀座のクラブのママになりたい」と夢見て上京。当時、テレビで有名だった銀座高級クラブ「F」で働く。相手の懐に飛び込むトークと物怖じしない性格が受け、たちまち人気ホステスとなる。その後、銀座老舗クラブ「江川」に引き抜かれ、売上ナンバーワンに。銀座ホステスを辞めてからは、主に文房具を扱う企画会社とタレントのキャスティング会社を起業。マルチクリエイティブプロデューサーとして、ビジネスの世界でも成功を収める。実業界から政界、マスコミ業界まで、様々な業界のトップクラスと親交が深いことでも知られる。
あべこうじお笑い芸人。1975年2月19日生まれ、神奈川県出身。O型。お笑いコンビ・カンヴァスとしてデビュー。2001年の解散後はソロ芸人として数々の番組に出演する。漫談をベースとする話芸の巧みさが話題になり、一躍スポットライトを浴びる。R-1ぐらんぷりで優勝するなど、実力派の芸人として知られている。

No.3 お笑いとビジネスの根底にあるもの

——大分トリニータの楽曲制作プロジェクトでは、お互い仕事人としての一面を見ることができたと思うのですが、印象は変わったりしましたか?

やっぱりセリーナさんは、進んでるなって感じがしますよね。自分のやりたいことを、とにかくどんどんやっていく人なんだなということを改めて感じました。

たまにそう言われるんですけどね、ちょっと違うんです。私、やりたいことをやっているように見えて、実は、やりたくないことをやらないだけなんです。

——やりたくないことというのは?

決められた場所に行って、決められた時間で仕事をすることが苦手なんですよね。ホステスを辞めた理由の一つが、それです。
でも今は、毎日いろんな場所に行って、いろんな人と話ができるから楽しいです。ようやく生きるのが楽になったなと感じています。その分、すべてが自己責任ですけどね。

楽に生きられるって、すごく大切なことですよね。いいと思う。

——あべさんはご自身の性格をどう思われていますか?

僕は、自分の性格って、いまだによくわかってないんですよね。ずっと自分探ししているような感じでした。でも今は、そういうのを考えることを止めたんです。
ときには流れに身を任せるのもいいんじゃないかと思って。今ここにいるのも、その結果です。だから、これから何が起きるのかなって、ワクワクしてるんですよ。

あべさんは、ひとつの職業で終わるにはもったいないくらい多才な方だから。ご自身が流されてみようと思うなら、どんどん流されて、それでいろんなことをやってほしいと思っちゃいますね。

——芸人以外の仕事を、ということですか?

セリーナ そうです。大分トリニータのプロジェクトを一緒に進めていくなかで、あべさんは、高いビジネススキルをお持ちだなと実感しました。
プロジェクトの途中、ちょっとしたトラブルがあって、あべさんに連絡をしたことがあったんです。「当初の予定から大幅に変更することになったのですが、こういう風にするのはどうでしょう?」と提案したんですね。普通の人はそこでまず、「どうしてそうなったんですか?」と経過を尋ねたり、あるいは「それは大変でしたね」と同情的な声をかけてくたりしますが、あべさんは「そうなんですね。ではそうしましょう」と、一言。余計な質問を一切しなかったんですよね。

だって、もうそうなってしまったんだから。決まったことは、受け止めるしかないんです。そのうえで、僕にできることは、それをプラスにするにはどうすればいいか考えることだけ。失敗に引っ張られてもドツボにはまるだけです。だったら、こうしたほうがいいねってアイデアを出すほうがずっといい。軌道修正するって言ったほうが近いですね。

トラブルも、受け止め方次第なんですよね。そういう意味で、あべさんの対応はすごく助かりました。

そう言っていただけると嬉しいです。でも、今回みたいなアクシデントって、芸人やっててもよくあります。実は僕たちって、普段からやってることが結構似てるんですよね。
セリーナさんはビジネスをしていて、僕は芸人してますけど、結局、どちらも面白いことをして、お客様を楽しませるというのがゴールじゃないですか。

おっしゃる通りです。同じですよね。私たちが目指すのはいつだって、お客様に喜んでもらうことです。ただ、ビジネスをしていると、そのゴール設定を間違えている人をしばしば見かけることがあります。

——どんな人なのでしょう?

以前、ある大手企業に広告代理店の営業マンを紹介するため同席したときのことです。きっとすごく気合いが入っていたんだと思います。商談に、大量の資料とデータを持ってきて、それをもとにプレゼンを始めたんです。

——大量の資料とデータですか。

そうです。ですが、大きな企業ほど、データはすでに持っていますし、たくさん資料を持ってこられても目を通すのに一苦労で、話が頭に入ってきません。結果、相手に言いたいことがちっとも伝わらず、商談は失敗に終わってしまったんです。

——なるほど。

あとで、その代理店の方に、あなたは今日何がしたかったのかと訊きました。すると返ってきた答えが「商談を成立させて契約を取ること」だったんです。

目的がズレちゃったのか。

そう。契約を結ぶことは単なる過程であって、本当は、その契約の先に、相手に何を提供できるか、どのくらいお客様が喜んで、どのくらい対価を支払ってくれることが予想されるのかを考えて話さないといけなかったんですよね。

——過程を意識しすぎるあまり、本当の目的を見失ってしまったんですね。

ただ、良い結果を出すためには、過程を意識することも大事なんです。過程を楽しめたら、面白い結果が生まれるというのが僕の考え。そのためには、やはり、明確なゴール設定が必要で、そこがブレたらだめなんですよね。

——もしも、あべさんが営業マンで、商談をするとなったらどうしますか?話術を駆使してすごく成果を上げそうなイメージが浮かびます。

うーん、どうでしょう。僕はテクニックよりも「この商品が好き」とか「この企業が好き」とか、そういう素直な気持ちのほうがずっと大事だと思います。それを飛び越えて、打算的に考えちゃうと、うまくいかなくなっちゃうんじゃないかな。

そうですね。私も、企業に提案に行くときは、「こういう楽しいことを思いついたんだけど、やってみませんか?」って、お喋りしに行く感覚です。企画書を書いたことは一度もないですし、パワーポイントもいまだに使えません。

——それでどうやって、売り込んでるんですか?

あべさんがおっしゃった通り、私の第一印象って、怪しい人で間違いないんです。今でも飛び込み営業することがありますが、鈴木セリーナですと言って、バカにするように笑われることも実際にあります。金髪の元ホステスとかいう女がいきなり会社に来るわけですから、そんな反応があっても仕方ありません。だからといって、怪しさを隠したりしないで、むしろ全面に出します。風呂敷を広げることで盾になることってあるじゃないですか。

そうだね。

はじめてお会いする方に怪しいと思われても、共通の言語を見つければ、結構簡単に打ち解けることってできるんです。たとえば、相手が企業の方だったら、「お客様に喜んでもらいたい」という同じ目的を持っているんだということを、まず伝えます。あとは、先ほどあべさんがおっしゃったように、その企業のファンであることも、必ず言いますね。

——なるほど。勉強になります。

今回、あべさんに作詞をお願いしたのも、単純に私があべさんのファンだからです。芸人としてのあべこうじではない部分にライトを当てて、あべさんには、こんな一面もあるんだということを、たくさんの人と共有したかったから。まだまだたくさんの人を巻き込めると思ってます。

僕もセリーナさんに巻き込まれてる一人ですからね。

いやいや(笑)。あべさんは、ビジネスパートナーですよ。

——この対談も、見方によっては、ビジネスマン同士の対談と言えるかもしれませんね。

僕からすると、セリーナさんは芸人ですけどね。

(笑)

(第4回に続く)